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2009.12.11スワッシュ.JP
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すみれ洋裁店 そこはこっそりアートな場所でした。

今年5周年を迎え、県内のみならず遠方からの来客も多いという噂の「すみれ洋裁店」。しかし実は、ここは洋裁店ではないとか…?

11月某日。冷たい雨の降る中、スワッシュスタッフは下諏訪は御田町商店街の中にあるとあるお店にお邪魔しました。いらっしゃい、と笑顔で迎えてくれたのは、すみれ洋裁店の店主、小口緑子さん。店内には、使い込まれた机や棚、鳥かごや湯たんぽやクジャクの羽や。それらの中に小口さん作の布を使った作品がふわっと並んでいます。懐かしの、家庭科室の椅子に腰掛けて、インタビュー開始です。

このお店を始められたきっかけは何だったのですか?

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そもそもはお店を開こうと考えていた訳ではないんです。当時組んでいたユニットの二人で制作をしていて、二人のものづくりの拠点となる場所を探していた時に、ちょうど下諏訪で空き店舗をなくして商店街を活性化するという取り組みがあって。それで紹介してもらったのが、今のお店の隣の建物でした。でも私たちはこの建物になぜか惹かれて。直感的に「あ、ここだ」って感じるものがあったんです。

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ここはおばあちゃんがひとりで営んでいた洋裁店だったそうなんですが、亡くなられた後は長いこと空き家になっていて、商店街のおばちゃんには「まさかこんな古い店舗を、若い娘さんが使おうとは」と心配されましたが、それでもやっぱりここがいいと、自分達でリフォームしました。

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リフォームをしている過程で、意外とこの建物が広いということに気がついて、それで二階をアトリエにして、一階部分はショップにしようという事になったんです。最初からあった「すみれ洋裁店」というお店の看板もその名前も、洋裁店じゃないけれど、気に入ってそのまま使うことにしたんです。

どんなものを制作されているんですか?

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布のバッグや小物が多いですが、特に布小物に的を絞って制作している訳ではないです。もともと小さい頃から美術が好きで、美術の学校にも行っていたし、物を作るのは私にとって、ずっとしてきた自然なことなんです。だから布で何かを作ろう、と言うよりも、ものづくりの素材がたまたま布だった、ということで。布以外にも紙とか、自分にとって身近なもので、自分の発見や考えを形にする、自然に遊ぶ様な感じで制作しています。

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小口さんにそう言われ、改めて店内を見れば、バッグなど布製品の他にも色々と作品が。ミシンで一本だけステッチのかけられた葉書、「草冠になるためのセット」、毛で覆われただるま。鉛筆。引き出しを開けると、その度に思いもよらないものが顔を出し、こ、これは?!と首をかしげることしばしば。

ここは何屋さんということになるんでしょうか…?

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うーん。実は、美術を売るお店が、諏訪にも普通にあったらいいな、と思っているんです。美術って、『今日は美術館に展覧会を見に行こう!名画を鑑賞しよう!!』とか、つい意気込んでしまいがちと言うか、ちょっと特別な感じのする場合がありますよね。そういうんじゃなくて、こういう商店街の中に、つまり日常の中に、非日常的なものがチラッとのぞいている場所があると、嬉しくなるし、楽しくなる。そういうお店になればと思っています。だから来てくれた人には、「?」とか「!」とか、感じてもらえるといいな、と。

日常の中の非日常。スワッシュ取材陣もこのお店の不思議さにはまり込み、いつの間にか店内を探検していました、それはもう宝探しのよう。そんな中、目に留まったのは、畳んだハンカチがおさめられている棚。よく見ると様々なハンカチのひとつひとつに日付が刺繍されています。そういえばバッグにも日付の入った物がありました。

日付の入った作品がありますが、これは…?

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日付はそのバッグを作った日なんですよ。1日1バッグというのをやっていて。それまでは、例えば同じバッグを10個作るとして、布を切る、持ち手を作る、縫う…、そういった作業をそれぞれ10個ぶんまとめて、一人で流れ作業みたいにしてやっていたんです。その方が効率がいいと思って。でもそのやり方に疑問を感じて、ある時に、今までの正反対をやろう、と思ったんです。つまり1日でひとつの作品を、布を裁断するところからはじめて完成まで、全ての行程を経て作ってみるということです。数をこなして上達することもねらって。

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そうしてしばらくやってみると、こちらの方が私のリズムに合っていることがわかりました。それが1日1バッグです。この制作をはじめてから1年くらい経った時に、バッグの形や大きさとそれに合った持ち手の長さや幅、そういう勘のようなものが自分の体の中に入って来た実感があって、もうバッグはこれでよし、と。一段落つけて、今は同じコンセプトで1日1ハンカチをやっています。

制作した日付のついたハンカチが収まっている様は、この棚自体がさながらカレンダーの様ですね。

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日付というものの不思議を感じますよね。『何月何日のハンカチくださいっ』というお客さんもいらっしゃいます。記念日とか、誰かの誕生日なんでしょうね。こちらにとってはその日に作ったハンカチというだけなんだけど、ある人にとってはその日付こそが特別なものになる。棚にこうして積んであると、それぞれのハンカチが、その日付を特別に思うお客さんとの出会いを待っているようにも感じられますね。

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わーお。そう思うと何だか不思議な感覚になってきますね。そこもアートですね!

オーダーメイドも引き受けてらっしゃるんですよね?

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そう、古い布や思い出のある布を持っていらして、それをバッグやポーチにリメイクして欲しいという注文や、オーダーメイドでバッグや法被(はっぴ)、ふんどしを作って欲しいというお客さんもいました。オーダーメイドではお客さんの希望や注文を聞いてそれに忠実に作るので、自分の作品を作るのとは全く別の作業になるんですが、どこでも作ってもらえなかったものが出来て良かった、とお客さんに喜んで貰えると、その方の役に立てたな、と思います。自分の作品を作るのとはまた種類の違う喜びがありますよ。

最後に、小口さんから見た諏訪の良さを教えてください。

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諏訪って不思議な土地だなと思っていて。観光の資源はあるのに、全然観光地っぽくないでしょう。気取ってないと言うのかな、気の利いたカフェとかもあまり無いし。でも遠くから来た人が、水と空気がおいしいってとても感激していたことがあって、もしかして本物、自然がちゃんとある土地だから、人もそれ以上求めないのかもしれないと思ったんです。カフェに行かなくても家でおいしいお茶が飲めるし、ゆっくり過ごすことができる。歴史も文化も、日常の中にあって、切り離されていない。だからあえて求めなくても済む。何も無い様で、実は暮らしの中に普通に本物がある土地、それが諏訪の良さなんじゃないかな、と思います。

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朗らかに、けれどもまっすぐにお話をされる小口さん。お店の一角には、かつてのすみれ洋裁店のお客さんだった方から戴いたという紫色のコートがかけられています。まるですみれ洋裁店のおばあちゃんが、小口さんを見守っているかのよう。

今も昔も、もの作りの場所であることは変わらずに、かつてハイカラなブティックだった「すみれ洋裁店」は、今では様々な物語ある作品が並ぶ、不思議なお店となっていました。

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すみれ洋裁店

〒393-0061長野県諏訪郡下諏訪町御田町下3210
電話&FAX 0266-27-8386
営業時間 12:00-18:00
日曜定休
続・すみれ日記

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